第5回
電波の性質

① 電波は直進する

前回でも述べましたように、アンテナから放射された電波は光のように直進します。しかしこの「直進する」とはどういうことかよく考える必要があります。「直進する」というのは結果としての見え方です。イギリスのホイヘンスとフランスのフレネルという学者が唱えた「ホイヘンス-フレネルの原理」が電波の伝播という現象を説明する基本になります。

図15は「ホイヘンス-フレネルの原理」を表したものです。まず波面 A-B があるものとします。次の段階ではこの波面 A-B 上の各点で球面波が発生すると考えるのです。これらの波面を合成すると結果的には新しい波面 A’-B’ になります。次の次の段階では、波面 A’-B’ 上の各点から再び生じる球面波により、次の新しい波面 A’’-B’’ が作られます。このようにして、新しい波面の形成が連なり、電波が伝播していく、と考えるのです。その結果として電波は真っ直ぐに拡がってゆくことが図14からもわかります。もし波面 A-B が平面であるのならば、 A’-B’ も A’’-B’’ も平面になり、平面波が伝播して行きます。

図15. ホイヘンス-フレネルの原理

② 電波は反射する

直進する電波の通路に金属板があるとこの「ホイヘンス-フレネルの原理」はどう働くのでしょうか。

金属でなくても、物理定数が異なる二つの媒質の境界に電波が入射すると、電波の反射を生じます。その様子を図16に示しました。波面 A-B-C の平面波が媒質1と媒質2との境界面に斜めに入射すると、 A での反射波は半径 AA’ の球面波となり、 B を通過した波は P で反射して半径 PB’ の球面波となります。これらの球面波により形成される等位相面 A’-B’-C’ が反射波の波面になるわけです。これが反射の場合のホイヘンス-フレネルの原理です。このとき、 三角形AC’C と 三角形ACA’ は直角三角形ですから、これらは合同であり、途中を省略しますが、

図16. 電波の反射

となります。つまり電波は入射角と同じ角度で反射するということです。
当たり前のようですが、重要な性質が導かれました。

③ 電波は屈折する

次に図17に示すようにもう一方の媒質に入り込む成分について考えます。波面 A-B-C の平面波が境界面に斜めに入射し、波面の一端 C が境界面上の Q から媒質2に入り込んで C' に達したときを考えると、 P を2次波源とする電波はすでに A’ に達しています。電波講座4の(8)に述べたように、媒質1と媒質2とで物理定数が異なると電波の速度が違ってきます。つまり波源からの球面波の半径が違ってくるわけです。媒質Ⅰ、Ⅱにおける波の速度をそれぞれ v1、v2 とし、 v1 >v2 であるとすると、図示したように新しい波面は A’-B’-C’ となり、電波は矢印の方向に屈折します。このようにホイヘンス-フレネルの原理から電波の屈折が説明できるわけです。

図17. 電波の屈折

④ 電波は回折する

電波は壁の裏側にも回り込みます。図18に示すように平面波が左から進んでくる場合を考え、途中に金属の壁があるとします。ホイヘンス-フレネルの原理で考えると、波面上の各点から生じる球面波が次々と受け継がれて進んでくる結果、電波は金属壁の裏側にも回りこむことができるというわけです。この現象は回折とよばれます。

ただし、この回折は周波数が高くなるにつれて少なくなります。図18の右側での電界強度を計算し、図19に示しました。(a) は携帯電話の周波数900MHzでの計算、(b) はその100倍である90GHzでの計算です。この結果、電波は周波数が高くなると光に似てきて、壁の回り込みのレベルが小さくなる様子がわかります。

図18. 電波の回折

図19. 周波数による回折の違い

⑤ 電波は建物内に侵入する

以上に述べたことから、例えば携帯電話であれば、図20に示すように、電波は反射、屈折しての透過、回折等のルートを経て屋内に侵入し携帯電話機にまで到達します。もちろん建物の材質や厚さによって、強度は様々になります。

周波数により回折量も透過量も変化します。携帯電話のように見えない相手との通信であれば、使用する周波数は低いほうが良いが、一方で、通信速度や通信量という点からは周波数が高いほうが多くの情報量を運べるので便利です。結局、システムごとに適した周波数を選ぶ必要があります。

図20. 電波の進入経路

コラム 電波は水中も伝わるか?

水中では光は一定の深さにまで達することはご存知の通りです。水の透明度によりますが、100mは届くのではないのでしょうか。電波では超長波とよばれる低い周波数の波が潜水艦の通信に使われています。周波数は22kHzで、水面下数十mまでしか届きません。アメリカではさらに低い76Hzの波が使われているようです。周波数が低いと伝達できる情報は極く限られたものになります。