電波と光は同じ“電磁波”に分類され、性質は似ています。光がまっすぐ進む様子は、目に見えるので疑問がありません。電波は目に見えませんが、やはりまっすぐ進みます。しかし光がわずかですが角を回り込むように電波も影の部分に回り込みます。これを“回折”現象といい、他の現象、即ち空気中の物質に“散乱”されたり、壁などで“反射”されたり、ガラス等を“透過”したりする現象とあわせることにより、直接届かないところ、例えば室内にも回り込んでくるというわけです。
第1回
携帯電話の基地局アンテナってご存知ですか?
はじめは皆様が一番身近に見ることができる携帯電話の基地局アンテナから始めましょう。
セル方式と基地局アンテナ
まず下の写真をご覧下さい。このように各種の基地局アンテナが林立している建物が見られます。どれががどんなシステムのアンテナか、はたまたどのアンテナがどの通信事業者のアンテナか、なかなか識別もできませんね。
図1 鈴なりのアンテナ
参考までに、向かって右側の比較的太い円柱が携帯電話の基地局アンテナです。なかでも上に設置されているのがA社で、やや下に見える2本がD社、ほぼ中央に8本あるのがW社のPHS基地局アンテナです。
“基地局”と簡単に書きましたが、こうしたアンテナの直下には各通信事業者の基地局装置が設置されており、アンテナと合わせて基地局と称します。そしてこれらの基地局は大きな移動通信システムのいわば出先としての役割を果たしています。携帯電話はこれらの基地局を介して移動通信システムにつながっています。
こうしたアンテナを見ているといろいろ疑問が湧いてきます。
- なぜあんな高いところにあるのか
- なぜみんな細長い形をしているのか。
- なぜ何本もセットになって設置されているのか。
- 左側に丸いアンテナと小さな四角いアンテナも見えるが、あれはどんな役割を果たしているのだろうか。
- 大体こんなにいろいろなアンテナから電波が放射されて、人間の健康に差し障りがないものだろうか。
このページではこうした疑問についてご一緒に考えることにしましょう。
無指向性アンテナ
移動通信システムは右図のように構成されています。携帯の基地局は無線アクセスネットワークの端に位置して携帯からの音声やデータの信号を集めて、これをコアネットワークに送ります。
コアネットワークでは信号の行先を整理して、他の携帯や固定電話あるいはインターネットにつなげるというわけです。
即ち、携帯の基地局は沢山の携帯電話からの信号を集めてネットワークに送り込み、またネットワークからきた信号を携帯電話機に送り届けるという役割を果します。
図2. 携帯電話と移動通信システム
まず次の3枚の写真に注目して下さい。これらが携帯電話の基地局アンテナです。携帯電話はこれらの基地局と電波をやりとりすることでシステムにつながっています。
少し説明しますと、(a)は皆様もよくご覧になると思われるタイプの基地局です。鉄塔の周囲に設置された3本の円筒形のアンテナがおわかりになるでしょうか。長さは2m弱で、太さは20cm程度、灰色に着色されています。アンテナの下から何本かのケーブルが出て、下にある基地局装置にまで届いています。よくみると黒く太いケーブルが2本ずつ出ております。実は2系統のアンテナが1つの円筒形カバーに収容されており、したがって全体で6系統のアンテナが取り付けられているのです。どうしてそんなに沢山のアンテナが必要なのでしょうか。
一方(b)は郊外で見受けられる長さが1m弱、直径は3cmほどの細いアンテナです。2本のアンテナが立っており、1本ずつケーブルが出ております。おわかりでしょうが、郊外では携帯電話の利用者も少ないので、アンテナの数も少なくて済みます。それにしてもどうして2本なのでしょうか。
(c)は建物内の天井に取り付けられた基地局アンテナです。建物の天井に取り付ける都合上、いたって小さなアンテナで、直径で30cm弱です。建物内で天井を見上げながら歩いているとわかるのですが、かなり短い間隔、数十m間隔で設置されているのに気づきます。電波は基本的にはまっすぐ進むため、大きな窓の近くでは外からの電波が届きますが、建物の奥までは届きません。同様にトンネル、地下街、地下鉄構内には電波はほとんど届かないので、基地局アンテナを適当な間隔で設置するというわけです。このような場所を専門用語ですが“不感地”とよび、(c)のようなアンテナを“不感地アンテナ”と称します。