第2回
携帯基地局アンテナに要求される性能

① セル方式と基地局アンテナ

移動通信方式では図4のように、大きなゾーンをちょうど亀の甲羅のように分割して、その一つひとつを基地局に対応させています。この細分化された範囲をセルとよび、このシステムをセル方式と称します。

このセルの大きさは都市の携帯電話が多いところで1km以内、郊外の携帯電話が少ないところでは数kmです。なぜ大きなゾーンをこのように小さいセルに分割するのでしょうか。

それは携帯電話の利用できる周波数範囲が限られていて、同じゾーン内ではあまり多くの携帯電話を同時に使うことができないからです。しかしこのようにセルに分けて、基地局の担当範囲を区切ると同じ周波数を何度でも繰り返して使うことができ、多くの携帯電話に対応できます。

さて図4のほぼ中央の3つのセルの円が交差するところに置かれた基地局からは、3方向へ電波ビームが放射され3つのセルをカバーしています。こうしたアンテナはセクターアンテナとよばれます。アンテナから見て一定の角度範囲すなわちセクターをこのアンテナがカバーするからです。

一方、セルの中央に置かれそのセル全体をサービスする基地局では、無指向性アンテナを設置します。無指向性アンテナとは水平面内で指向性が無い、即ちどの方向にも万遍無く電波を放射するアンテナです。

図4.セル方式

② 無指向性アンテナ

図5を見てください。(a)を丸くふくらんだ風船と考えましょう。この風船の中央部を上下から指で押した場合が(b)で、ドーナツ状になります。風船の中の空気を電波のエネルギーと考えると、風船がつぶれた分だけエネルギーが横に拡がっています。

(a)の状態は実際のアンテナで実現することはできないのですが、全体に均一にエネルギーが拡がっている状態であり、これを等方性(isotropic)の指向性と称します。一方(b)では、水平面内は均一で、上下方向にはエネルギーが行かない状態となっており、この状態を無指向性あるいは全方向性(omni-directional)と称します。

そこでさらに上下から押さえつけると風船はさらにつぶされて(c)のようになります。ここで注目すべきなのは横への拡がりです。つぶれた分だけ横に拡がって、上下に行かない電波のエネルギーが水平の遠くに届く状態になります。こうした無指向性のアンテナをセルの中央に置けば周囲の広い範囲に均一にサービスできるというわけです。

こうした無指向性アンテナは、例えば図5(b)の左に示したダイポール素子を用いることで比較的容易に実現することができます。ダイポール素子は棒状のアンテナなので、中心軸以外の方向には均一な指向性が得られます。

また(c)のようにダイポール素子を中心軸方向に並べて、ここが重要なところなのですが、同じ位相で励振すると、ビームが鋭くなり図5(c)の指向性が得られます。実際には給電線の配置があるので、単純に並べられないのですが、講座1に示した図3(b)はこうした構造のアンテナです。

図5.等方性と無指向性

③ セクターアンテナ

市街地などで多数の携帯電話にサービスしなければならない場合は、セルの中心に基地局を置くのではなく図4に示したように、3つのセルが接する地点に基地局を置いて、1局で3つのセルをサービスできる配置とします。これが講座1の図3(a)のアンテナです。 この場合に必要なのは無指向性ではなく、セクタービームを放射するアンテナです。こうしたアンテナは1例として図6(a)に示すように、ダイポールアンテナに金属性の反射器を配置することで実現できます。反射器でダイポールからの電波が前方へはね返されてセクタービームができます。

(a)の水平面内指向性は図(b)の赤線のようになります。このビームは正面方向より左右に60゚のところで-3dBとなるので、ビーム幅が120゚である、と言います。「ビーム幅」とは-3dB幅と定義されています。

このアンテナを3方向に配置することで図4のセクターアンテナが実現できます。ただこの指向性は120゚の扇形とはやや形状が異なっております。

サービスエリヤ方向でも3dBの偏差があること、120゚の外側にも電波がもれるので、隣のセクターへの干渉となるといった問題があります。特に干渉の問題が重要で、このために120゚のサービスエリアでもより細いビームでセクターを作ることが行われています。

アンテナ技術的に言えば、アンテナの横幅を拡げてゆくとこの干渉領域は限りなく小さくすることができます。しかしそうするとアンテナの横幅も非常に大きくなってしまうので図6のレベルで妥協をはかっているのが実情です。

また、これまで3セクターについて説明しましたが、都市の人口稠密な地域では、6セクターの基地局を設置することで、セルをさらに小さくすることも行われています。

図6.120°セクターアンテナ

コラム アンテナはなぜ縦に長いか

懐中電灯でも大きなものは遠くまで光が届きます。単に電池のパワーが大きいだけではありません。灯台のライトのように、波面を広い範囲にわたってそろえて、電波・光や音波を送り出すと、その波は遠くまであまり拡がらず達します。ですからアンテナも遠くに届かせるためには大きな開口部をもたせる必要があります。基地局アンテナでは、垂直方向では遠くへ届かせるために拡げますが、水平方向では、無指向にしたりセクターにしたりするので、拡げないでなるべく細く作ります。だから横には細いが縦には長い形状になるのです。