大きく3つの点で違います。まず周波数ですが、PHSには1900MHz帯という高い周波数が割当られています。また送信電力が標準の基地局では20mW以下、端末の出力も0.1mW以下と、携帯電話に比べると1/100以下に制限されています。このためPHS基地局のエリヤは携帯にくらべかなり狭くなりますが、安全な電波機器として病院内でも使用されています。また通信方式もTDD(Time Division Duplex)という上り/下りで同じ周波数をつかう方式をとっています。
第9回
いろいろな形をしたアンテナ
これまでの各章でダイポールアンテナと呼ばれる棒状の素子を中心に述べました。本章ではダイポールアンテナとは形状の異なるアンテナ素子について、その具体的な構造と特徴を述べたいと思います。
図33にモノポールアンテナの原理を示します。まず同図(a)にダイポールアンテナが示されておりますが、このダイポールアンテナの真ん中に大きな導体板を挿入した(b)の場合を考えます。するとダイポールの下半分は要らなくなります。導体板ですから、電波的にはちょうど鏡をおいたように上半分のイメージが出来て、下半分はなくても指向性が同じになるからです。
図33.モノポールアンテナの原理図
電圧は給電線の上側と導体板の間にかけます。電圧は半分で済みます。したがって給電インピーダンスも半分になります。ダイポールアンテナのインピーダンスはほぼ73Ωですが、モノポールでは約30Ωになります。
しかしながら実際に使用する場合、大きな導体板は無理ですから図33(c)に示すような構造になります。有限の導体板(これをグランドと称します)に1/4波長の素子を立て、下から同軸ケーブルで給電する構造です。もちろんアンテナ素子とグランドは絶縁します。
(c)の状態では、グランドの大きさで指向性やインピーダンス特性が変化します。有限のグランドだと放射ビームが水平方向より上を向くようになります。しかしグランドの半径が1/4波長だと利得最大値はほぼ水平の方向になります。
グランドをさらに小さくすると指向性は水平方向を向くのですが別の問題が起こります。高周波電流がグランドを回り込んで給電ケーブルの外皮に漏れるようになり、そこからも放射が起きて指向性が変化し、さらにケーブルの配線状況によっても変化してしまうようになります。
そこでケーブルの外皮に電流が流れないようにシュペルトップというものを使いますが、ここでは省略します。
図34は駅等にある自動販売機の中に設置された弊社製のアンテナです。このアンテナは800MHz帯と2GHz帯とで共用できるアンテナで、カードで販売する際に販売者との間でデータをやりとりする無線装置につながるアンテナです。800MHz帯では、1/4波長にするには90cmくらいの長さが欲しいところですが、そこをこれだけの長さに抑え、しかも800MHz帯と2GHz帯とでケーブルに電流が漏れないようにするために、外からは見えない工夫を凝らしております。
平面アンテナ
図35には棒状ではなく、四角い平面形状のアンテナを紹介しました。これも弊社製のPHS方式用のアンテナです。このアンテナの向いている先には高層ビルがあり、ビルの各階で使われているPHSの端末に対して電波を送受信する基地局アンテナとしての役割を果たしています。
これまで述べてきた棒状のアンテナは、水平面内が円形もしくは扇形の広い地域をサービスエリヤとしています。棒状のアンテナはそうしたエリヤに適しております。一方この平面アンテナは限られたエリヤをサーチライトのように照らすアンテナです。
図35. PHS基地局平面アンテナ
アンテナの構成図を図36(a)に示します。マイクロストリップアンテナと呼ばれる平面形状の素子を16素子配置し、同相になるように給電ラインを巡らせています。
マイクロストリップアンテナですが、図36(b)に示すような誘電体基板と呼ばれる板、これは誘電体損失の少ない樹脂を用い、上下から金属板でサンドイッチした板ですが、この基板を用い、下面は金属板を残してグランド面とし、上面の金属板は加工して、四角形の放射部を残したものです。給電はいろいろな方法がありますが、典型的なのは図(c)に示したようにグランドの下から給電する方法です。すると図(c)に示したような電界が内部に形成されます。放射部の長さが使用周波数のちょうど半分で共振して図のような電界分布となり、この四角い放射素子の端面から放射が起こります。つまり上下の金属の間に生じた定在波より放射が行われるところはダイポールと同じです。
給電は図(a)のように放射部と同じ面に給電線を形成して、分岐給電する方法もあります。また素子としては四角である必要はなく、円形の素子もよく用いられます。
このマイクロストリップアンテナからの放射はグランド面もあることから図(c)の大きな矢印で示した方向に向かいます。つまり単方向指向性のアンテナになり、利得は7dBi前後になります。これを素子として図(a)のように配置したアンテナを平面アレイと称し、この方法でさらに利得の高いアンテナを実現することができます。
マイクロストリップアンテナは何より薄くて利得が高いことから、いろいろな用途に使われます。ただし帯域幅の狭いことが欠点で、比帯域幅で0.5%程度です。これは既に図32(b)に述べましたが、無給電素子を用いて拡げることができます。
図36. マイクロストリップアンテナ