アンテナ界には有名な話があります。第二次大戦中にアメリカやイギリスではレーダ用にこのアンテナを多用していました。1942年に日本軍がイギリスの植民地だったシンガポールを占領したのですが、イギリス軍のレーダに関する技術書の中に”YAGI”という単語が出てくるので、これは何かと聞きました。するとその捕虜から「あなたは、本当にその言葉を知らないのか。YAGIとは、このアンテナを発明した日本人の名前だ」と教えられたのだそうです。
第10回
いろいろな形をしたアンテナⅡ
③ 八木アンテナ(八木・宇田アンテナ)
私たちがもっとも身近で見るアンテナの一つは図37に見られるTV用アンテナではないでしょうか。写真ではアンテナが上下二段あり、上がUHF帯用、下が周波数の低いVHF帯用であることはご存知の方も多いと思います。これらは一般的には八木アンテナと呼ばれます。1926年に東北大学の八木秀次、宇田新太郎の両氏によって発明されたアンテナで、正式には八木・宇田アンテナと称し、欧米でもYagi-Uda Arraysと呼ばれています。
このアンテナの動作原理を理解するためにまず、図38に示すような給電されたダイポールアンテナと、給電されていない素子 (無給電素子) と近づけて置いた場合を考えましょう。この状態では素子同士はお互いに強い影響を受け合います。これを素子間の相互結合といい、この相互結合により無給電素子にも強い高周波電流が流れます。そして無給電素子に流れる電流の位相と振幅は、無給電素子の長さと、素子間の間隔とにより大きく変化し、合成した指向性も大きく変化します。
図37.テレビ受信用八木アンテナ
図38.給電素子と無給電素子
図39にその様子を示しました。(a)は、長めの無給電素子をやや離した場合ですが、電波は無給電素子にはね返される状態になっており後方に5.7dBiの利得が得られます。一方、(b) では、やや短い素子を間隔も少し詰めた結果、電波が無給電素子の方向へ引き出され前方に5.3dBiの利得です。
図39.給電素子と無給電素子
そこで同じ無給電素子でも (a) の場合を反射素子とよび、(b) の場合を導波素子と呼びます。八木アンテナはこの反射素子と導波素子とを組み合わせたアンテナです。
図40に励振素子1、反射素子1、導波素子6よりなる八木アンテナの構造と、指向性の計算結果を示しました。導波素子の長さはすべて0.44λ、間隔もすべて0.22λとしています。この構成で指向性を計算したのが図(b)です。最大利得は電界で4.06倍、即ち12.1 dBiとなります。反射素子と導波素子を両方使用することで、鋭い指向性が形成されていることがわかります。
八木アンテナはこのように簡易な構造で高い利得を得られるのが長所ですが、使用帯域幅が狭いのが欠点で、図37の下段にあるVHF帯用のアンテナでは、高・低の二周波数を組合わせるという工夫をしています。
図40.8素子八木アンテナ
④ パラボラアンテナ(1)
さて、図40にNTTのマイクロ鉄塔に搭載されたアンテナ群を示しました。ここには10基以上のアンテナが見えます。大きさも形もいろいろありますが、ひとくくりにパラボラアンテナとよばれています。
これらのアンテナにはこれまで述べた携帯電話の基地局アンテナとはきわだって異なる特徴があります。その一つはこれらのアンテナは通信する相手が特定されており、そこに向けてできるだけ細い電波ビームを作って信号を送受信するアンテナであるということです。
そうした場合にはできるだけ細いビームを作り、余分なエネルギーを周囲に振り撒かないことが重要です。パラボラアンテナはなるべく大きな開口面積に、位相のそろった電波の拡がりを形成してこの目的を達成します。ちょうど灯台の光のようです。
まず、パラボラアンテナは図41に示すように2次曲線のひとつである放物線をその中心線(この図ではz軸)を軸に回転させた回転放物面(英語でパラボロイドという)を反射鏡に用います。回転放物面はその焦点から光のように直進する電波が放射されると、それを中心軸の方向へ反射するという性質を持っています。
2次曲線だの焦点だのという話は忘れたという方も多いかもしれませんね。パラボラアンテナはその2次曲線をいろいろ組合わせて使います。(次回へ続く)
図40.鉄塔に並んだパラボラアンテナ
図41.パラボラアンテナの原理