第12回
いろいろな形をしたアンテナⅣ
屋内用アンテナ
この節では弊社が得意としている分野のひとつである屋内用アンテナについて述べます。
屋外の電波は、地下鉄の駅や線路、トンネルや地下商店街、鉄筋コンクリート建物の奥には届きません。そうした場所を専門用語ですが「不感地」と呼んでいます。そうした不感地には特別の基地局設備とアンテナが設置されており、屋外のシステムとつながっています。
まず図49は地下鉄のホームで見られる不感地アンテナで、天井の白い薄い箱が携帯電話のアンテナであり、これは0.8/1.5GHz帯で使用されています。一方そのアンテナの右側に小さいが背のややある、やはり白い箱も携帯電話のアンテナであり、これは2GHz帯で使用されています。
また図50は駅の天井に取り付けられたWiMAXシステムの屋内基地局アンテナです。こうした屋内用アンテナはなるべく薄く小さく作られ、かつ目立たないように取り付けられています。
図49 地下鉄ホームの屋内用アンテナ
図50 WiMAX用屋内用アンテナ
不感地アンテナはこのように天井に取り付けられている場合が多く、そうした場合は垂直偏波の無指向性アンテナが用いられます。天井に取り付けられる場合には姿勢の低い形状が要求されます。例えば図51(a)に示すようにダイポールアンテナを取り付けると、その高さは1/2波長に近くなってしまいます。いやいや何も垂直につけることはない。(b)のように水平におけばいいじゃないの、という考え方もできますが、天井が金属板の場合、図に示したようにイメージが現れて、(b)では最も電波を飛ばしたい水平方向には利得がとれません。
さきに図33で示したモノポールアンテナを用いるとイメージは(c)のようにできるので、水平方向に強い電波がでます。しかしモノポールアンテナでも1/4波長の高さが必要です。もし900MHz帯であれば、それは83mmで、コネクタやカバーを考えると、より低い方がということになります。
そこで図52(a)に示したように、モノポールアンテナを途中で折り曲げた逆Lアンテナが使用されます。電波の放射に寄与するのは、垂直な部分だけですので、モノポールアンテナより性能的には劣りますが、低姿勢化は達成されます。
また(b)に示したのはその形状から逆Fアンテナと呼ばれ、接地点を増やしてインピーダンスの調整をやり易くしたタイプです。
さらに小さくしたい場合は(c)のように折り曲げる部分を金属板にする方法があります。こうしたタイプを容量板装荷型と呼びます。
図51 屋内用アンテナとそのイメージ
図52 屋内用低姿勢アンテナ
こうしたアンテナの内部構造の一例を図53に示しました。これはデパートの天井などに取り付けられている0.8/1.5GHz帯用のアンテナで、容量板装荷型の例ですが、0.8GHz帯の送・受信用のアンテナが一対、1.5GHz帯のアンテナが同じく一対の計4台のアンテナが箱の中に収納されています。
すべて垂直偏波の無指向性アンテナであり、波長にくらべてかなり小さい条件下で特性を確保するためにいろいろな工夫がなされています。ちなみにアンテナの脇におかれた30cmの定規がほぼ波長に相当するというわけです。
図53 屋内用アンテナの実例
マルチアンテナ
さきに第1回の③において、屋外の携帯基地局アンテナには1本のカバーの中にはそれぞれ2本のアンテナが収納されていると述べました。つまりマルチアンテナになっているというわけですが、それはどういうことでしょうか。
内部構成は、図55(a)に示すように垂直偏波と水平偏波のアンテナが収まっている場合と、(b)のように垂直偏波のアンテナが2本収まっている場合とがあります。
こうしたマルチアンテナは、ダイバーシティ方式や、MIMO(マイモと読みます)方式に使用されます。それぞれは通信方式に関わる内容ですので、ここでは簡単に触れるだけにしますが、ダイバーシティとは、複数のアンテナで受信した同じ無線信号のうちの、電波状況の優れたアンテナの信号を優先的に用いる方法で、通信の質や信頼性の向上を図る技術です。偏波で切り分けて選択する偏波ダイバーシティと、離れた垂直偏波アンテナで良い方を選択するスペースダイバーシティとが多く使われています。
図54 屋外用のマルチアンテナ
一方MIMOはMultiple-Input Multiple-Outputの略です。情報の流れを二つ以上の複数のストリームに分けて、それぞれを同じ方向を向いた別々のアンテナから送ります。受信側ではやはり複数のアンテナで受けて、まず各アンテナからストリーム毎の信号を集め、さらにそれらをひとつに合成して情報を再生します。すると送受できる情報の量がストリームの数だけ多くなり、即ち情報伝達速度が早くなるわけです。
マルチアンテナにはこれらの他に、ビームフォーミングといって使用環境に適したビームを形成するタイプもあり、弊社でも何例かの開発試作が行われました。
図55 マルチアンテナの構成
おわりに
これまで12回にわたりこのコーナーにお付き合い頂きありがとうございました。現在使われている各種のアンテナについて、それも私たち日本電業工作の製品を中心に述べてきました。携帯電話の基地局アンテナに関しては、アンテナが無線システムの装置に取り込まれて、或いはアンテナが無線装置を取り込んで、全体としてより柔軟な通信システム実現へ向け、アンテナがさらに重要な役割を担う方向へ進んでいくものと思われます。今後ともアンテナ技術の発展と日本電業工作の技術的進化にご注目下さい。